【感想】『凍りのくじら』辻村深月著:素直で居られない「すこし・不在」な女子高生と「すこし・ふしぎ」な物語

小説
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辻村深月さんの作品を初めて読んだのですが、分厚さも気にならずぐんぐん読み進めてしまいました。先が気になるのもありますが、主人公理帆子の斜に構えた内面が、読んでる側からすると妙に恥ずかしい感じがしてしまって……彼女、どうなるかしら?と一気読みです。

そんな『凍りのくじら』の紹介と感想です。

『凍りのくじら』の書誌情報

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  • 2018年11月14日 第1版発行
  • 著者:辻村深月
  • 発行所:講談社

あらすじ

藤子・F・不二雄を「先生」と呼び、その作品を愛する父が失踪して5年。高校生の理帆子は、夏の図書館で「写真を撮らせてほしい」と言う一人の青年に出会う。戸惑いつつも、他とは違う内面を見せていく理帆子。そして同じ頃に始まった不思議な警告。皆が愛する素敵な“道具”が私たちを照らすとき――。

『凍りのくじら』裏表紙より

印象に残った箇所

読んでいて印象に残った箇所をざっと紹介します。各章にドラえもんの秘密道具がタイトルで出てくるのが、『凍りのくじら』の楽しいところです。

ドラえもんは有名ですが、秘密道具一つ一つについて問われると、余程のファンでなければ自信ないですよね。知らない道具もたくさんあるかもしれないです。

第1章 どこでもドア

ぼくにとっての「SF」は、サイエンス・フィクションではなくて、「少し不思議な物語」のSF(すこし・ふしぎ)なのです(p.19 l.2)

おそらく孫引きですが、これは知りませんでした。ドラえもんはすごく好きで、子どもの頃に何度も何度も同じ映画を観返したりしていました。ただ、藤子先生の言葉とかは触れたことがなかったのです。なるほど、少し不思議な物語だったのですね。

ダメなカードというものは、それがろくでなしであればある程、手元にある最中はそうとは気付かない。(p.21 l.3)

良いと思って持っていたものが、いざ、手元を離れると誰も見向きもしない。良いと思うものなんて人それぞれにしても、なんだか悲しくなる考え方でした。

私が普段遊んでいるこの子たちはほとんど本を読まないし、そのせいか、全ての場面で言葉が足りない。考え続けることに対する耐性がないのだ。(p.30 l.10)

確かに、読書量が少ないためか、使える語彙の少ない人は多いと思います。語彙が少なければ、考え続ける耐性も身につかないでしょう。

ただ、賢さは万能ではないな、と思います。というのも、中途半端に賢いがために病んでしまうことって、世の中には多いんですよね。おそらく、思考力はあるものの、自己コントロールがうまくできずにどんどんネガティブなほうへ、自分を追い詰めてしまうからだと思っています。

そう考えると、理帆子が普段遊んでいる子たちは、言葉が足りない分、とても素直にものを考えるので、案外そのほうが生き方としては賢いかもしれません。知的ではないにしても、変にうじうじと悩まずに、単純に考えることができるのですから。

第2章 カワイソメダル

これを一緒にする相手にはこの人が一番最適だ、そういうのってあるでしょう?図書館で勉強を一緒にするならこの人、映画を観に行くならこの人。(p.116 l.5)

最近、何でも一緒にできる友達に憧れてしまって、あの子もその子も特定のことじゃないと一緒にできないなぁなんて悲しく思っていたのですが、いやいや、これを一緒にする相手にはこの人が一番最適だ、ですね。

彼は人と接することが不得手な癖に、私と違って自覚が全くない。自分は正義だと信じて疑わないのが、傍で見ていてイタい。同類だけど、私より程度がひどい。(p.123 l.5)

理帆子はここまで人を観察しているのにもかかわらず、自分のひどさは少なく見積もっているな、と思いました。理帆子はあんまり他人に害がないので、その点はマシなのは確かなのですが、本音を言わない、人を舐めている、目の前の現実と距離を取っているような気になっているという点が結構致命傷になるんですよね。この時の理帆子はそこまで思い至ってないのですが。彼女は常に、どこか傲慢なんですよね。

「ドラえもんが未来に帰る話。のび太くんがジャイアンに決闘を挑むんだ」「あ、『さようならドラえもん』」(p.136 l.13)

私はアニメのドラえもんを多く見ていたので、原作の「さようならドラえもん」をアニメ化した「帰ってきたドラえもん」なら知っていました。原作のほうもまだらには読んでいるのですが、全編+長編も読んでおきたいと思いました。

感想

印象に残った箇所に載せなかったのですが、自分が『凍りのくじら』を読み終えた際の感想メモを見ると、「人として最低な欲求『私は、彼が堕ちていくところが見たい。』(p.123 l.8)」と書かれていました。これは理帆子の良くない面ですが、私も現実で見かけました。昔友人だった人で、人が堕ちていくところが見たいと言っていた人が。そういうことってまあ、生きてりゃ思うこともあるのかもしれないんですけど、私はその発言を聞いて、人をただの観察対象としか思っていないような感じが妙に気味悪かったので、そっと、距離を置きました。

普段優しい人でも、気分が沈んだ時や精神的にきついときに、ひどいことを考えることはあると思います。でもその子は、普段からそう。現実と距離を感じているのも理帆子と似ていました。ただ、理帆子よりもっと内面が歪んでいるな、と日頃から思っていたので、このまま傍にいれば厄介ごとに巻き込まれかねないと思ってしまいました。

作中、理帆子も人を舐めていたがゆえに、「郁也」という大切な人を痛めつけられ、失いそうになりました。物語だから、大事には至らずに済みましたが、おそらくあのような展開になれば、郁也のような立場の人は衰弱して亡くなっていたのではないかと。そう思うからか、人を舐めている人には警戒してしまいます。

理帆子は最終的に、きちんと自分の気持ちを外に出せるようになりました。彼女はもう人を舐め腐ったりはしないだろうと思います。でもね、現実で何か事件が起きてから改めるのでは、手遅れになることのほうが多いと思うので……私は「理帆子のようになってはいないか」と自身に問い続けたいと思います。

まとめ

私は理帆子の暗い部分にフォーカスしましたが、作品全体は「すこし・ふしぎ」な話として、非常に面白かったです。

なかなか「すこし・ふしぎ」の加減が難しそうだと思ったので、本作はうまいこと「すこし・ふしぎ」に描かれているのが良いなと思った部分です。

『凍りのくじら』というタイトルに含まれた意味は、ぜひともご自身の目で確かめてください。そして、本作にどんな秘密道具が登場するのかも。

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