【書評】『桜のような僕の恋人』の読書感想文:散りゆく桜の記憶

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たまに気分で小説を読みます、ねこどんです。

今回は『桜のような僕の恋人』を読み切ったので、思ったことをだらだら書いていこうと思います。ネタバレ注意です。

この記事を読んでも大丈夫そうな人👇

  • 暇を持て余している人
  • ネタバレが平気な人
  • 小並感漂う読書感想文でも怒らない人

当てはまればGO!!

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他にも書評記事書いてます。
>>>【小説】新訳版『一九八四年』の感想:行き過ぎた監視社会というディストピア
>>>漫画『恋は雨上がりのように』を読み切った感想:夢に向かうための雨宿り

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『桜のような僕の恋人』のあらすじ

美容師を勤める24歳の「有明美咲」に恋をした冴えないニート「朝倉晴人」。

晴人は美咲が勤める美容院にて髪を切ってもらっている際に、耳たぶを切り落とされてしまう。その「耳たぶ事件」がきっかけで、二人は恋人になった。お互いを大切に思い、少しずつ歩み寄る日々を過ごす。

しかし、その日々は美咲の病気によって壊されてしまった。通常の何十倍もの早さで老いてしまう病に向き合わなければならない美咲。老いる姿を晴人には見られたくない。そんな美咲は晴人に別れを告げるも…

『桜のような僕の恋人』の感想

正直、普段はあまり恋愛ものは好んで読まないんですが、何となく気分でこの本を買いまして。

とりあえず頑張って最後まで読んだので、感想をまとめておきますね…。

(恋愛が軸になっている話はどうにも穿った見方をしてしまいがちで、そういった姿勢が出てしまっていたらすみません)

美容師とカメラマン志望という組み合わせが身近ではなくて違和感

しょっぱなから違和感について書くのもどうかと思うのですが。

美容師とカメラマン志望の人間が出会うことって、まあ普通にあるとは思います。

しかし、美容師がお客さんに恋しちゃうって話がなんだかとっても微妙というか、フィクション云々関係なく”胡散臭さ”を感じます。

客は客、仕事だから会話してるわけであってしかも耳たぶを切り落とした相手に対して罪悪感以外の感情って湧くものなのかなぁと。むしろ、客の挙動不審な行動のせいで耳たぶを切ってしまうという”事故”が起きてしまったわけですから、罪悪感とともに迷惑な客に対する怒りや苛立ちを感じてもおかしくないのではないでしょうか。

その辺、美咲はお人よし過ぎるというか、男慣れしていないというか…女子的に惚れる要素薄いなぁなんて思いました。

もちろん、物語的にはカメラマン目指して頑張っている晴人(その時点では嘘だけど)に、美咲自身を重ねて惹かれていっているんだとは思いますが…正直、この時点の晴人は嘘つきだし何も頑張ってないしで話も多分少し突っ込めばボロが出ちゃうくらい超薄っぺらいです。(多分、美咲はあまり晴人に興味がなくて、耳たぶ事件まで嘘がバレなかったんじゃないかなぁ)

とにかく、こんなわけわかんない人に惚れる人ってあまりにも少数派なんじゃないかなぁと思いました。(あくまで主観です)

『桜のような僕の恋人』の登場人物について

朝倉晴人という人物

第一印象は、初心で幼稚なまま大人になってしまったニートでした。

だってほら、物語冒頭では働いていなかったので。

とはいえ、物語全部を読み切った後の朝倉晴人の印象は、良くも悪くも素直な人間です。

彼は自分がカメラマンだと嘘をついていましたが、それだって一目惚れした人に残念なニートだと思われて嫌われるのを恐れた結果です。こういうところに、自分自身への素直さを感じました。(個人的には、嫌われないために自分を偽る人は嫌いですけどね!他人に不誠実だし、結局現状の自分を受け入れていないという点で、自分にも不誠実です。)

良くも悪くも自分の感情で動いていて、計算高くもないです。そんな感じだから、あまりにもおかしな展開で進んだ関係でも、美咲に思いが通じたのでしょう。

有明美咲という人物

晴人目線だと美咲という人物がめちゃくちゃ可愛い人ですが、実際はどうなんでしょうね。一目惚れフィルターが大いにかかっている気がします。

とはいえ、猫のように大きな目をしており、化粧をしないと少女のような童顔みたいなことが書いてあったので、第三者から見ても可愛いのだろうと思います。

ただ、美咲は人見知りなので恋人とか恋愛に縁がなかった。夢を追っていたから、というのも理由の一つかもしれませんが。

夢といえば、美咲は晴人と違い、物語冒頭では既に毎日懸命に夢を叶えようと努力していました。

そんな美咲からして、耳たぶ事件以降の物語序盤の晴人と言う人物は、怠け者というか、頑張る前から諦めている情けないやつ…みたいな存在だったかと思います。

そんな晴人が、美咲の言葉と夢への姿勢に感化され、再び夢を追いかける。

ここで終わっていたら、良くありそうな物語で終わっていました。

『桜のような僕の恋人』で物語の主軸となる「病気」について

人の数十倍も早く老いるということ

病名は「ファストフォワード症候群」。

これがねぇ、非常に残酷な病です。もしも、自分がたった一年もかからずに老婆になり、死に至るとしたら。

たぶん、美咲以上に周りに当たり散らしてしまうなあ。

良くないと分かっていても、怒りや悲しみ、憤りを制御するのは…そのような病気になってしまっては難しいです。

感情の制御というのは、余裕のある人間にしかできないことだと思います。

しかも、美咲には夢があった。夢のために、日々を捧げてきた。ヘアカットでみんなを笑顔に、幸せにしたい。いつかは自分のお店を持ちたい・・・。

こういう、素敵な夢を持った人が病気で苦しむ様は、読んでいて非常に苦しかった。夢を諦めることって、めちゃめちゃしんどいんですよ。何の為に生きてきたのかわからなくなる。

でも、体が動かない、どんどん体調が悪くなるような状態で、叶えられない夢を持ち続けることもかなりしんどい。

拷問みたいなものです。美咲はほとんどの夢を諦めました。

でも、一つだけ、持ち続けた夢がありました。

晴人に会いたい美咲

美咲はその願いから顔をそむけていましたが、ずっと晴人に会いたいと願っていました。

病気が発覚してプロポーズを受けたあと、美咲は病気を晴人に伝えずに他に好きな人がいると電話で伝えて晴人の前から姿を消しました。好きな人にものすごい早さでおいていく自分の姿を見られたくない。その思いから、晴人に会いたくても会えない日々を過ごしました。

美咲が晴人と再び関わるようになったのは、クリスマスに美咲の兄貴司が晴人に真実を告げたことがきっかけです。

そのときには、美咲の衰弱、老化はかなり進行していました。見た目が見た目なので、直接顔を合わせるのを避け、ふすま越しの会話を毎日続けていました。なんかもうしんどいんですよ。

会話と言いましたが正確には晴人が一人で喋り続けて美咲は無言です。晴人にしわがれた声を聞かれたくなかったから。

美咲は本当は晴人の顔が見たいし、若い姿で晴人の左隣を歩きたいんですよ。普通だったら、想いが通じてさえいれば簡単にできることです。

でも、美咲にはそれができない。

なぜなら、もう若い姿ではない、老婆のような容姿になっていたから。

せっかく恋人になったのに、しかもかなり仲良さげで幸せそうだったのに、こんな仕打ちするかぁ。だってあまり恋愛を謳歌してこなかった二人が、こんな結末を迎えるのはやるせない気持ちになります。

どうせなら、パリピとか、いわゆる青春を謳歌し恋愛三昧だった人がなった方が不公平感が少なくなるというのに(圧倒的わがまま)

まあ、今まで恋愛にどっぷり漬かってこなかったような人の方が、悲恋を際立たせるのでしょうね。ここまで考えるとなんだか妙に白けてきました…物語のための病気なんだなって(ひねくれていてすみません)

自分を責める晴人

結局、美咲は春の桜が咲く前に儚く散ってしまうのですが、それを知った晴人は猛烈に自分を責めます。

正確に言えば、美咲が亡くなる直前の写真展の際、二人は公園で会っていたのに晴人はその相手が美咲だと気づけなかったことに対して自分を責めました。(他にも、色々振り返って後悔している様子でしたが。)

「いや、仕方ないって。」と思いましたけど、晴人的にはいくら後悔してもしたりないんでしょうね。

美咲を傷つけてしまったと思い悩み、アシスタントの仕事を急に辞め、引きこもります。しばらく飲まず食わずで、骨と皮になってしまいます。

美咲は写真展のあと、亡くなる前に晴人に手紙を残しました。しかし、晴人はしばらくその手紙を読みません。美咲を傷つけてしまったという後悔から、美咲の残してくれた言葉を見るのが怖かったのでしょうね。

ついでに、カメラについても思い悩みます。

美咲と出会って、再び始めたカメラですからね。

美咲に相応しい人間になるために頑張っていましたからね。

美咲がいなくなったら、目標を見失いますし、何を撮ればいいのかわからなくなります。

ここで、意外にも激おこプンプン丸高梨先輩が晴人の家に喝を入れにやってきます。不器用だけど熱かった。うん。

紆余曲折あり、物語最後に晴人は決心します。

「美咲のために撮り続ける」と。

『桜のような僕の恋人』読書感想文まとめ

物語の最後で、朝倉晴人は美咲のために写真を撮り続けると決意しました。それについて思うところを吐き出します。

絵でも商業イラストを描く人もいれば、自分のためにお金にならない絵を描く人もいますよね。

自分の知り合いにもいます。商業イラストを描いている人と、自分のためだけに描いている人が。商業イラストだってたくさんの時間と労力と描き手の努力が必要です。しかし、商業イラストでは描き手の主張を込められる機会はかなり少ないことかと思います。舞い込んできたお仕事の依頼人の要望に応えるのが商業イラストなのかなと。

であれば、描き手の主張を込めるのがアートなのかなぁと思いました。

晴人は美咲のために写真を撮り続けるそうですが、これは背中を押してくれた美咲のために大好きなカメラマンを諦めないという解釈でいいのかな。あんまり他人の気持ちとかわからないので、この手の作品の解釈は苦手です。

みなさんも考えてみてください。

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