【感想】『アイネクライネナハトムジーク』伊坂幸太郎著:登場人物のつながりと前後する時系列が特徴の連作短編集

書評
スポンサーリンク

伊坂幸太郎さんの作品は、登場人物のつながりが多く、時系列も前後することが多いみたいですね。私は『アイネクライネナハトムジーク』が初めての伊坂さんの本でしたが、他の著書のレビューや感想を見て回って、つながりと時系列について言及されている方が多かったです。

さて、伊坂さんの作品は初めてと述べましたが、備忘録がてら『アイネクライネナハトムジーク』の感想を記録しておきます。

スポンサーリンク

『アイネクライネナハトムジーク』の書誌情報

  • 平成29年8月5日 初版発行
  • 平成30年7月25日 3版発行
  • 著者:伊坂幸太郎
  • 発行所:幻冬舎

あらすじ

妻に出て行かれたサラリーマン、声しか知らない相手に恋する美容師、元いじめっ子と再会してしまったOL……。人生は、いつも楽しいことばかりじゃない。でも、運転免許センターで、リビングで、駐輪場で、奇跡は起こる。情けなくても愛おしい登場人物たちが仕掛ける、不器用な駆け引きの数々。明日がきっと楽しくなる、魔法のような連作短編集。

『アイネクライネナハトムジーク』裏表紙より

印象に残った箇所

印象に残った箇所を、各タイトルで分けて残します。

アイネクライネ

出会いに関する会話にて、織田一真の発言。

そんな都合のいいことなんて、あるわけねーんだよ。しかも、その女が、お前のことを気に入って、できれば、趣味も似ていればいいな、なんてな、ありえねえよ。どんな確率だよ。ドラえもんが僕の机から出てこないかな、ってのと一緒だろうが(p.27 l.1)

出会いに夢見る佐藤に、これでもかと辛辣なことを言う織田一真。でも、確かになぁ。ただ日々を過ごしていく中で、劇的な出会いなんてのを夢見るのは、ドラえもんを待つのと大差ないですね。行動あるのみ。変化がなければ、期待するようなことは何も起こらないと思っておいたほうが良さそう。

「そういえば、小夜曲ってなかったっけ? モーツァルトの」僕は言う。「あの、超有名な」「アイネ・クライネ・ナハトムジーク?」織田由美が言う。(p.34 l.1)

「アイネクライネナハトムジーク」が曲名であることは、別の本を読んでいるときに知ったのですが、小夜曲であることをここで知りました。

ドクメンタ

藤間は話を聞きながら、機能改善の要望が出ているにもかかわらず、新製品となっても、その要望が反映されていないサーバー端末のことを思い浮かべた。おい、俺たちの提案は聞いてもらえないのかよ、それなら別メーカーと取引するよ、と誰だって愛想を尽かす。(p.128 l.3)

これは、性格がだらしない主婦が夫に愛想を尽かされて、大喧嘩になったという話を聞き、藤間が考えたことです。藤間も妻と娘に家を出て行かれた仲間です。私も仕事がIT系なので、藤間の例えはよくわかります。ただ、日ごろからパートナーの意見を無視して何も改善してこなかった結果、妻と娘が家を出てしまった後にこんなことを考えても遅いのよ、とも思いました。

私自身、まあまあだらしないほうですが、とはいえ藤間のほうがだらしなく、こんな人が家にいたら自分の仕事が増えて嫌だなぁと思う派です。いつもいつも、他人の尻ぬぐいをさせられるのは嫌です。

ナハトムジーク

どうせ親がいなかったから乱暴なんだ、とか思われたら、ほかの頑張っている子供たちに申し訳ないでしょ。行儀良くて、常識があって、でも強い、というのが恰好いいじゃないの(p.298 l.2)

これは姉の香澄から弟のウィンストン小野へ向けた発言です。この考え方、良いなぁと思いました。私は親はいるのですが、子どもの頃はなんだか親の機嫌に振り回されて、ときおり暴力も振るわれていた身です。ちょっとこう、捻くれちゃっているというか、元の性格の癖が強まっちゃっている感じで今の自分があるのですが、香澄の発言を読んで、もうちょい頑張りたいなと思いました。子どもの時が多少辛かったことを言い訳にして横暴な態度を取ったりせず、謙虚に学びを深めつつ、楽しく生きていきたいです。苦労なんてなかったかのような人間に見えるように、楽しく。

感想

連作短編集なるものを初めて読みました。伊坂さんも初めてなので、初めてづくしです。

巻末の解説によれば、伊坂さんは普段はあまり恋愛話は書かないそうですね。本作は珍しい作風らしいのですが、それを感じさせないほど、自然に描けているように思いました。

作中何度も出てくる「斎藤さん」ですが、これも同じく解説にて説明されており、なるほどそういういきさつで登場しているのか、と思いました。100円を支払うとその時々にふさわしい歌詞を流してくれる人物というのは、面白いキャラクターだなぁと思っていました。しかし、現実にやってみるとすれば、余程曲を知り尽くしている人じゃなければできないよなぁ、とも。そのカラクリは、解説にて知ることが出来ますゆえ。

そして、意外な人物が繋がっていること、時系列が前後することは、伊坂さんの作品にはよくあることらしいですね。おかげさまで、誰と誰が繋がってくるのかを予測するのはちょっと難しく、読み進めることによっていろいろと分かってくる感じも良かったです。

ただ、あれですね、読む感覚が空いてしまうと、前後の話を忘れてしまうので一気に読んだほうがいいのかもしれません。遡ったりして確認するのは手間です(笑)

そういう特徴を踏まえて、今後伊坂さんの作品を読むことにします。

まとめ

『アイネクライネナハトムジーク』は、登場人物や話につながりのある連作短編集です。伊坂さん特有の時系列が前後するという特徴もあるので、一気読みをおすすめします。

そして、伊坂さんには珍しく、恋愛をテーマに描かれているので、いつもと違う伊坂さんの作品が楽しめます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました