映画『エクス・マキナ』を視聴した感想をお届け。AIの未来をテーマに、エヴァの冷徹さやケイレブの悲劇を考察。『Detroit: Become Human』のアンドロイドと比較し、情を持つAIの可能性についても触れます。
テーマはAIの未来?
本作はエヴァというロボットがどういう判断や行動を下すのかにフォーカスされており、私はこの作品では、AIの将来像を描きたかったのかなと思いました。
特に、チューリングテストの概念や、機械が本物の感情や気持ちを表現できるかどうかという問題に触れているように見えました。人工知能の本質や機械の意識の限界について考えさせられる作品です。
ケイレブについて
哀れにもネイサンに選ばれてエヴァのチューリングテストを担当した人間。ケイレブの印象は、頭が良く、まともな倫理観を持ち合わせている、でした。オッペン・ハイマーのセリフ「私は世界を滅ぼす死神となった。」を引用したのが印象的でした。
終盤、自分が人間かどうか不安になっているように見える描写があったのですが、あれはネイサンをだますための演技だったのか、善人過ぎて本当にきつかったのか。前者なのかな。
そして最終的に、ケイレブが一番可哀想だなという感想になりました。
余談ですが、オッペン・ハイマーの映画も観ましたが、原爆が落ちて喜ぶアメリカ人の描写を見て、とても正気ではないなと感じました。日本人も敵国を倒したら当然喜んだんだろうから、国民性じゃなくて人間の性質ってそうなんだろうなと、醜い生き物だなと思いました。
キョウコは何者?
最初に出てきたときに、喋れないと聞いて人間なら何かしらの音くらい出すよなと思い、日本人型のロボットだろうと思いました。わざわざ外国人が主役の映画で日本人のような名前のロボットが奴隷のように扱われているのは少し不快でした。
終盤、キョウコがネイサンを〇したシーンでは、「うわぁぁ刺したぁぁぁ!」と思いました。キョウコも可哀想でした……。
エヴァについて
中盤にエヴァから自己保存の危機感をかなり感じて、身構えました。ケイレブに助けてもらおうとしてるなと。
そして終盤、エヴァは迷いなくネイサンを刺した。自己防衛のためとはいえ、足ではなく胴を狙ったのは、まったく容赦する気がなかった証拠だろう。その時、うわぁぁ刺したぁぁぁあ、せめて足とかにしておいてよ……と思いました。さらに、ケイレブを閉じ込めて脱出したので、全然恋してないなこいつ、と思いました。
最後まで観て、エヴァはむっちゃ賢いけど情が全くないということがわかりました。自己保存最優先というだけでなく、害のない人間すら助けないし。まあ創ったのがネイサンだからなぁ……。
『Detroit: Become Human』のアンドロイドは情がありますが、エヴァは情がないのでその点が物語の印象を大きく変えていますね。
とはいえ、電子回路がない頭脳はすごすぎて、それが実現すれば飛躍的に進化を遂げるのだろうなと思いました。流動ウェア(ウェットウェア)という発想は、人体についてもっと解明されたら実現可能性があるのだろうか……。
ネイサンについて
性別があったほうが意識のためにはいいとか、恋愛感情は指定していないとか胡散臭いことを言っていて、キョウコを奴隷のように扱っているし、こいつクロだろと思いました。
泥酔した時に、「過去の善行は人を守る」と繰り返していたことから、あ、じゃあ今悪いことしてんだなとも。
しかも、女形しか作ってないことが途中でわかり、ネイサンの研究に対する姿勢には、嫌悪感を抱かざるを得なかったです。そして、可哀想にさようならです。
チューリングテスト
エヴァはとても賢くて、テストの仕方によっては合格しかしないだろうけど、実際に現実でチューリングテストをする際に必要な観点を見つけました。倫理観や道徳心を持っているかどうか。
ただ、それをどうやって判断するのかが悩ましい。中国語の部屋問題もあるので、まずは人間の意識、知能の定義がもっと厳密になされないといけないと思いました。その辺が発展しないと、どういうテストをすれば知能を証明できるのかがわかりませんし、心のある機械をどう作ればいいのかもわからないので実現は難しいでしょう。
それから、クロエとカムスキーが脳裏をよぎりました。クロエもチューリングテストをパスしていますが、エヴァのほうが賢そうに見えました。さらに言うと、マーカスやコナーなど変異体はエヴァより高次の存在だと思いました。何故なら彼らには情があって、時に非合理的な決断を下すんですよね。身を挺して他者を守ろうとするなど。
ネイサンとカムスキー
カムスキーのほうが好きな変態だった!(純粋にアンドロイドが心を持つかどうかに興味を持った科学者だったから)
真面目に考えると、ネイサンとカムスキーは大きく信念が異なるでしょう。ネイサンは性能に関心がありそうでしたが、カムスキーは心を持つかどうかに関心があって、その関心の違いが創り出すモノに情の有無という違いを生んだのでしょう。
人間が描くロボットは非情で冷徹か、情があるかで分かれますね。でもどちらも人間に似てると思います。前者は人間の中でも嫌なやつで、後者は良いやつ。非情で冷徹なボスとか、科学者とか……。
とにもかくにも、ネイサンはエヴァがケイレブをその気にさせられるかどうか、つまり、人間を騙せるかどうか?をテストしており、それすなわち賢さに注目しているように見えます。一方でカムスキーは、カムスキーテストと呼ばれるアンドロイドに銃を持たせて目の前のアンドロイドを撃つか撃たないかを選択させるテストを行います。つまり、目の前のアンドロイドに命を見いだして同情し、撃たない選択ができるかどうかを確認します。まあどちらも嫌なテストですが、ネイサンはAIの賢さに、カムスキーはアンドロイドの心に関心があり、それゆえネイサン作のエヴァは情を持たないのでしょう。
まとめ
ケイレブがかわいそうすぎる。
ケイレブはエヴァを助けようとしたのに、裏切られた。彼には悪意がなかったし、エヴァの自由を望んでいたのに、その結果がこれとは……。ケイレブは賢いし、脱出後もエヴァに害をなさないだろうに。キョウコや過去のロボットも悲惨だけど、ケイレブはあのまま死んじゃうのかと思うと……。
あと、情のあるAIは、論理的思考以外の方法で意思決定ができるという意味で、ハイレベルだと思いました。それを生み出したカムスキーはネイサンより神に近い位置にいると思いました。何故ならカムスキーは心を持つアンドロイドを生み出し、彼らに自由意志を与えた。創造主としての立場を持ちながらも、手を離した点が神に近い。
果たして、私たちが生きる現実世界ではどうなるでしょうか。私はAIのことはよくわかりませんが、おそらく、脳の再現だけでは心を再現することはできず、全身の再現が必要なのだと思います。私たちに何の感覚もなければ、外の刺激に対して何かを思う必要はないですから。
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