【感想】『コンビニ人間』村田沙耶香著:多様性とか言いながら「普通」を押し付けてくる社会

小説
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『コンビニ人間』を読んだ。

本書は、現代社会の嫌な部分を煮詰めて凝縮したような作品。地獄は多様で、もっと酷く苦しい人生は山程あるが、誰が決めたかもわからない「普通」を求め続けられるのも苦しいものだなと思った。ただ、ありそうもない「優しい物語」よりも、生きづらさを抱えた主人公の内面を淡々と語られる方が共感はできるし、案外励みになったりもするかも。

以下、本書の紹介と感想垂れ流し。

『コンビニ人間』書誌情報

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  • 2018年9月10日 第1刷
  • 2019年6月20日 第12刷
  • 著者:村田紗耶香
  • 発行所:文藝春秋

あらすじ

「いらっしゃいませー!」お客様がたてる音に負けじと、私は叫ぶ。古倉恵子、コンビニバイト歴18年。彼氏なしの36歳。日々、コンビニ食を食べ、夢の中でもレジを打ち、「店員」でいるときのみ世界の歯車になれる。ある日婚活目的の新入り男性・白羽がやってきて……。現代の実存を軽やかに問う第155回芥川賞受賞作。

『コンビニ人間』裏表紙より

感想

ここからはネタバレを含むので、既読の方向けです。

感想垂れ流しと書いた通り、読みやすさや読者はまるで意識しておらず、気の赴くままに書いてます。

「普通」ではない人間には他者が土足で踏み込んでくる

主人公古倉は、彼氏なし36歳コンビニアルバイト歴18年だそうだ。アルバイトだけで生活できていることに驚きだが、一応実家を出て自立しているので誰かにとやかく言われる筋合いはないように思える。しかし、作中では家族はもちろん、地元の友人やコンビニで働く仲間たち、はたまた初対面の人間にまで「結婚か就職はした方がいい」と口出しされている。

確かに近しい人間からしたら、いい歳して定職にも就かずに、独身で生活しているのは危なっかしいだろう。しかし、心配だけでなく「普通ではないから」という理由で主人公に干渉している点が非常に鬱陶しく感じた。私はどちらかといえば社会不適合気味で、主人公側の人間なのかもしれない。

白羽と古倉の違い

ところで、白羽はすごく醜く歪んでいるように見えたが、彼の場合はダメ人間という印象を受け、主人公には人間を模した何かという印象を受けた。2人は立場的には似ているが、内面がまったく遠い存在だと思う。

白羽は、社会の構造や「普通」であることを求める人間たちに嫌悪感を持ちながら、憎むべき人間たちと同じ論理で主人公を攻撃する。完全には人間を諦められず、ただ単に「普通」に出来ないだけなんだなと。

一方で、主人公は「普通」がわからないしなりたいわけでもないけれど、自分の存在がその場から削除されると困るから周囲を模してなんとかやり過ごしている感じ。

発達障害の当事者と周囲の困り具合

読んでいて、主人公の倫理観や社会性の身につかなさは異常だと思ったが、発達障害を抱えているとこんなものなのだろうか。生きていれば経験でこれはやっちゃいけない、とか判断できることが増えていく様な気がするが、主人公にはそれが極端に少ないな、と思った。

ねこどん
ねこどん

主人公を異常とか言っちゃうあたり、私は「普通」だと思い込んでいるし、常識にとらわれているのだと思いました。

大学を卒業していることから特段IQが低いわけでもなさそう。その場の空気が読めないというよりも、そもそも人間のルールを明確に言葉で教えてもらわないと理解できないのかも。

主人公はコンビニのようなマニュアル労働であればできる様なので(コンビニ以外の仕事は経験がない様だが)、明確な指示さえあれば生きていける。逆にいえば、なんとなく人間らしく振る舞う人の中にいれば、どうすればいいのかわからないのだろう。なぜ殴っちゃいけないのか、なぜ死んだ小鳥を可愛そがるのか、合理的に説明しない限り主人公は理解しない。本文に明記されていないので素人判断だが、ASDのような特性を持っていると思った。

主人公は他者に不気味がられたり、変な人間だと思われることそのものではなく、とにかくその場から「削除」されることだけを回避しようとしている様だった。「普通」はわからないけれど、とりあえず今の居場所から不審者認定されて排除されると困るな、といった感じ。

『推し、燃ゆ』でも思ったけど、この手の主人公ってどうも淡々としているな、と思った。それは出来ないのが当たり前だからか、長年そうしてきたからなのか。周りは深刻に捉えるけれど、そもそも本人には自分がやばいって自覚がないというか。

曖昧な倫理観や社会性が身に付かない以上、自分をやばいとは思わないのだろうか。いや、『推し、燃ゆ』の主人公あかりは、「普通」をある程度理解したうえでそれが出来ない自分に気づいていたからまた別の話だろうか。

私もコンビニバイトの経験はあるので、主人公がお客様の音で判断するのは共感できた。そんな感じで本書には、共感できる部分が点在していた。

しかし、スコップで人を殴ったらやばいことが判断できないとか、ナイフを見ながら黙らせるだけなら簡単なのにと思ってしまう思考回路はまるで理解できなかった。わざわざ子どもを産んでいるのに、どうしてナイフで黙らせたら解決すると思えるのだろう。死んだら産んだ意味がないでしょうに。主人公は目的の先にある大きな目的が見えていない感じがした。

主人公のような目の前のことしか見えない思考回路だと、この世界を生きるのには辛いんだろうな、と思った。みんなが言葉にしない目的や暗黙の了解が多すぎて、わからない。主人公程じゃないが、私も稀にある。指示の理由や背景が汲み取れず、頓珍漢なことをして周囲を困らせることが。稀だし規模もまあまあ小さいので、不本意ながら「天然」という扱いで許されている。

主人公は困ったな、程度で深刻に捉えていないが、家族は辛いだろうなと思った。家族はどうやら「普通」が読み取れる人たちみたいだったので、逆に主人公の行動は理解ができず、人間ではない生き物を見るような感覚だったのではないか。

カウンセリングにも行ったみたいだが、この場合は精神の異常ではなく脳の異常だろうから、病院に行けばよかったのにね、と不憫に思った。色々困っているものの、どうやら必要な知識にはありつけていない様だった。

ねこどん
ねこどん

語弊があると悪いので補足ですが、脳の異常というのは、「平均的な脳と違う働きをする点」を指して言っているので、差別的な意図はありません。

『推し、燃ゆ』でも思ったけど、どうして家族は一番近くにいながら、主人公を的確に把握できないんだろう。どうして学ぼうとしないのだろう。ずっと疑問に思っているが、おそらく長らく我が子の行動に振り回された疲労でまともな行動が取れないのだろうな、とか。

それに、発達障害って言葉は知っていても、特性に関する知識や脳の構造の違いからくるものだという知識はなかなか持っていないのが普通なのだろう。

興味がなければ知ることはない。そういうものか。

まとめ

なかなか、読んでいて色んなことを思う作品だった。

私は、主人公を責める立場は取らず、かといって周囲に責任があるとも思っていない。どちらかと言えば、社会構造のバグの様なものだなと感じている。

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発達障害って今どのくらいいるのか知りませんが、正直彼らの特性で現代のルールに馴染むのは非常にしんどいと思っている。何の診断も受けていない自分ですら朝起きれなかったり日中眠かったり、予定の確認漏れをしたり……となかなか苦戦しているのに、薬を処方されても順応できない方も多い発達障害を抱えて、なんで社会に合わせないといけないのでしょう。

もはや社会が人間に合っていないと思う。白羽じゃないので、縄文時代から変わっていないとは言わないが、むしろ悪化しているのではないか。ルールがより複雑になり、食う寝る狩る繁殖するだけでは許されない世の中。

もっと楽になって!(心の声)

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