【感想】『滅びの前のシャングリラ』凪良ゆう著:終末だからこそわかる自分の本心

書評
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『流浪の月』が本屋大賞を受賞した後、最初に出版されたのが『滅びの前のシャングリラ』だそうで。

本屋大賞に興味があるわけではありませんが、一気に知名度が上がったのか何かと話題にのぼることも多い作品です。

私は本屋で見かけて面白そうだったので買ってみました。結果、結構面白くて一気読みです。

以下、感想です。

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『滅びの前のシャングリラ』書誌情報

  • 2020年10月10日 初版発行
  • 著者:凪良ゆう
  • 発行所:中央公論新社

感想

んーーーー!面白くて一気読みって、たまにしかしないんですよねー

一気読みしちゃった本はお気に入りに仲間入りです。今まで読んでお気に入りになった本は、『一九八四年』『第二図書係補佐』『推し、燃ゆ』『コンビニ人間』です。割とミーハーかな?あんまり小難しいと読むのを挫折してしまうので。

静香の性格が好みだった

『滅びの前のシャングリラ』は、序盤の方で江那家のお母さん「静香」の強くてたくましい性格に惚れました。私はどちらかというとくよくよしがちなので、静香のような考えても仕方ねぇだろ!みたいな割り切った考え方ができる人が羨ましいです。

世界があと1ヶ月程度で終わると分かっても仕事に行こうとしたり、仕事に行ったら誰もいなかったから缶詰を略奪してきたり…たくましいことこの上ないですよね。この生命力が欲しい。

とはいえ、静香の過去を考えると、たくましくなるまでには結構な苦労があったようです。親に殴られて育って、たまにフラッシュバックに苛まれたりしているというのは、そこそこきついことだと思います。そういうのって大人になっても記憶に根強く残ってしまうので、なかなか自分の中で消化しきれないんじゃないかな。

友樹を1人で育てると決めてからも、殴らないように、たくさん愛情を注ぐようにとかなり意識したとも書かれていました。静香は自分のことを頭が悪いと評していますが、子供にとって一番大切なものをよく理解していて、全然頭が悪いとは思いませんでした。躾と称して殴る蹴る、自分の機嫌で子供を振り回す親は多いですが、それが良くないと理解した上でちゃんと行動にも反映してる点が賢い。

信士がお父さんになっていく様子が微笑しい

信士も静香のような境遇で育ったようですが、彼はブレーキが壊れちゃっているようで、登場してしばらくはヤクザという印象しかなかったです。

子供がいるとは知らずに何年も過ごしてきたから、めちゃくちゃな生活から抜け出すこともなかったようです。

紆余曲折あって、信士は自分に子供がいることを知り、初めて顔を合わせ、終末に向けてお父さんになっていく。

最初は、暴れ散らかして友樹のこともボコボコにして一家離散コースだと思っていたのですが、思ったよりもお父さんをやってくれるんです。偉い。

信士が狩り(略奪)担当で、静香が炊事担当、子供たちが情報収集をする。信士は家族たちに危険が迫れば全力で敵をぶっ飛ばしてくれます。心強いお父さんですね。敵に回したくはないですが。

ブレーキが効かず、暴力しかできないみたいに本人も言っていましたが、老夫婦の墓を作って花を備えたり、子供を見守ったりと意外と優しい面もあったんだなと。

親に殴られて育ってしまって、すごく傷ついてしまったんだなぁと。すぐカッとなるのはそれだけ抱えている葛藤がでかいからなんじゃないかなぁと。荷物が重いからうまく感情の処理ができないって感じ。

静香も信士も根はいい人で、不運にも親ガチャには失敗したけれども、終末に子供たちと共に過ごせて、本当に良かったなって思いました。

初版限定「イスパハン」

この本、実は付録が付いているんです。

雪絵の話が読めるのですが、何ていうか、本編を読んでから読むと、もう既に終わったことなんだよなぁと、しみじみとしてしまいます。

とてもピュアで、雪絵の葛藤が描かれた話でした。

まとめ

終末って素直になるしかないから、人間社会は崩壊し、動物園みたいになるのだろうと思いました。ということは、普段我々はどれだけの本心を押し殺して生きているのでしょう。もちろん、なるべく素直に生きようとしている人でも倫理観や法が邪魔して表に出せない気持ちがあるはず。

法や倫理を取っ払って自分に向き合えればいいのですが、それはなかなか難しいのでしょう。『コンビニ人間』でも人間は洗脳されていると再三主張されていたように思います。

終末に後悔しないためにも、可能な範囲で素直に生きたいですね。

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