辻村深月さんの作品の中でも、最初に読むことが勧められる『スロウハイツの神様』。
私は『凍りのくじら』の次に読んでみましたが、これは是非最初に読んでもらうことをおすすめしたいなと思いました。
以下、読後の感想です。
『スロウハイツの神様』のあらすじ
人気作家チヨダ・コーキの小説で人が死んだ――あの事件から十年。アパート「スロウハイツ」ではオーナーである脚本家の赤羽環とコーキ、そして友人たちが共同生活を送っていた。夢を語り、物語を作る。好きなことに没頭し、刺激し合っていた6人。空室だった201号室に、新たな住人がやってくるまでは。
『スロウハイツの神様(上)』裏表紙より
書誌情報
- 2010年1月15日第1刷発行
- 2020年5月27日第42刷発行
- 著者:辻村深月
- 発行所:講談社
- 2010年1月15日第1刷発行
- 2020年8月28日第35刷発行
感想
上巻だけ読むと、ただただ作家と作家の卵たちの愉快な生活にしか見えないのかなーと思います。読者に住人の個性や仕事を理解させていくのが上巻の役割なのかと。
下巻の最後まで読むと、『スロウハイツの神様』という作品は、大きく愛情がテーマなんじゃないかと思えます。そのくらいハートフルな展開になるので、ちゃんと下巻を読んで欲しいです。
上巻でバラまいた伏線を下巻でガッと回収していくので、下巻のほうが読み応えがあるんだと思いますが、上巻ありきの下巻ですから!
読書メーターの感想を眺めていると、上巻がいまいち面白くなくて下巻を読むか迷うとの声も結構見かけました。
確かに、上巻には物語の緩急があまりなく、ひたすら日常が描写されているようにも見えるので、読み応えはないのかもしれません。
でも、先に言ったように伏線が張られていたり、住人の個性や関係に理解を深めたりすることで、下巻が力を発揮してくれるので、騙されたと思って下巻まで読み進めて欲しいです。
実際、私は面白くて毎晩読み進めてしまいましたから。
繊細な心理描写が魅力
特に、辻村深月さんの本は、繊細な心理描写に定評があるようです。
私も、『凍りのくじら』を読んだ時からそれを感じていて、『スロウハイツの神様』でもやはり丁寧な心理描写が施されていました。
自分と異なった性格の登場人物が、どの場面でどう感じるか、どう考えるかを眺めるのが面白いです。
私はどちらかといえば負けず嫌いな面があるので、環の物の考え方はちょっとわかるなとか、逆にスーの振る舞い方は全然タイプが違うなぁとか。
狩野は話しやすそうだなぁ、正義は苦手かもなぁなんて考えてたら、物語にどっぷり浸かってました。
作中で印象に残った箇所
印象に残った箇所はいくつかあるのですが、一部を抜粋します。
人間とは、年を取り経験を獲得することに伴い、実際の出来事を見るのに慣れきって、思い入れや情緒が摩耗していく生き物(p.52)
これ、最近すごくそう思って過ごしていました。学生の頃は、みんな1つ1つの出来事に泣いたり笑ったり、興味を持って接していたのに、今じゃさも当然といった顔して素通りする。
私自身も、最近、無感動になってきているなと感じていて、こんなんじゃ生きるの楽しくない。
どうしたら1つ1つの出来事に一喜一憂し、真摯に向き合えるんでしょう。慣れとか飽きることによって目の前の出来事が全くつまらなく思えてしまうなんて、とても悲しいことです。
どうしたらいいんですかね…?
愛は、イコール執着だよ。その相手にきちんと執着することだ(p.58)
はっとさせられました。巷では、恋愛で相手に執着するな、と叫ばれていますが、私は上のセリフに賛成。
もちろん、ストーカーなんてのはやりすぎですけど、相手にきちんと関心を持って、思いやって心配して気遣ってってのが愛かなって。
いなくなってもどうでもいいやとか、そんなん愛じゃないですよね。いてもいなくてもいいとかね。だったら1人でいいじゃないか。
世の中にはとても淡白な人も少なくないようで、日常で相手を意識せず、距離をだいぶ取ったりすることもあるんですよね。人の愛情なんてそれぞれだと思いますけど、私は回避性の人は苦手かもな、と思いました。
まとめ
文庫本だと上下に分かれていて、まあまあ分厚いので手が出しづらいかもしれませんが、心理描写が丁寧だし、後半にかけての伏線回収で物語が大きく盛り上がるので、そういうのが好きな人にはおすすめです。
住人のあの発言はこういう意味だったのか!とか、この人の過去ってこんなだったのか…という驚き、また、この気持ちわかるかもという共感や、逆にこんな風に考えるのかという気づきもあるかな、と。
結構盛沢山で、面白いですし、感動もするかもしれません。
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