会社員のねこどんです。突然ですが、あなたは幸せですか?
やりたいことをしている、自分で決めたことをしている、目標に向かって努力している。そのような人は、今の日本にどのくらいいるのでしょうか。多くの人は、それなりに趣味を楽しみつつ、会社の言いなりになる日々を過ごしているのではないでしょうか。
しょっぱなからリストラされてしまう、『ひなた弁当』という小説を読みました。文庫本読み切りです。
物語後半の食材の描写が素晴らしくおいしそうで、帰りの電車で読んでるときに食欲がわいてしまいました(笑)
せっかくなので、『ひなた弁当』を読んで感じたことや学んだことをまとめます。
『ひなた弁当』の書誌情報
- 2011年9月25日 初版発行
- 2013年6月25日 4刷発行
- 著者:山本甲士
- 発行所:中央公論新社
私が読んだのは、上記の古いほうですが、今だと小学館文庫から出版されているものが新品で買えるみたいです。
あらすじ
五十歳を目前に会社からリストラされた芦溝良郎は、妻や娘からも愛想をつかされ居場所を失う。リストラに仕組まれた罠を知っても、自信も誇りもない男に立ち上がる気力はなかった。ある日、隣近所の手前、出勤しているふりをして立ち寄った公園のベンチで、良郎にひとつのアイディアが閃く。良郎が手にした「生き抜くすべ」とは!?
山本甲士『ひなた弁当』(2011)中央公論新社 裏表紙より
『ひなた弁当』の感想
私は会社員をしておりまして、日々の中で本を読む時間は大してありません。そのような中で、帰りの電車内で読むなどして時間を取り、『ひなた弁当』を読み切りました。1週間かかりましたね~
帰りの電車で本を読むのは眠気との戦いなのですが、『ひなた弁当』はなんだか引き込まれてしまってどんどん読み進めていました。
そんな『ひなた弁当』を読んで思ったことをまとめましょう。
失われた10年の殺伐とした雰囲気
昨今の日本経済はどうでしょう。良いとは言えませんが、失われた10年のような大不況ではないと思います。
それゆえ、私は失われた10年が舞台の『ひなた弁当』での殺伐とした雰囲気を知りません。もちろん、リーマンショックだの大規模リストラだのとニュースで見たことはあります。それでも、肌で感じたことがなかったので、ここまでひどいとは思っていませんでした。
具体的にどう酷いのかは、これから書いていきます。
良郎がリストラされる経緯がえげつない
良郎が勤める「王崎ホーム」も不況の影響を受けて経営が怪しくなっていました。
そこで正社員・契約社員をバッサリ切る大規模なリストラを断行。正社員だった良郎も、リストラの対象になっていました。そこまではよくあることでしょう。
しかし、ここからが酷い話なのです。
良郎は同じくリストラを提案された直属の上司である池上部長、同期の古賀と合流し、リストラに関する情報交換をします。なんとかリストラされないよう、策を考えようとするのですが……。
池上部長にだまされて、結局リストラの餌食になりました。部下にリストラを承諾するように説得すれば、自分は会社に残れる。そんな、胸糞悪い理由で良郎を生贄にした池上部長でした。
しかも、「会社の言うことを聞いてリストラを受け入れるふりをすれば会社に残れる」と良郎に伝えたのです。世の中ろくでもない上司はたくさんいますが、こんな陰湿に部下を騙す上司……。
会社も会社ですけどね。派閥争いの巻き添えというか、ついでに社員を切る。そのうえ、部長クラスをそそのかす。黒いですね。
騙される良郎もお人好し過ぎるのですが、それでもかわいそうです。さらに、上司に裏切られたこともかわいそうですが、家でもかわいそうなんですよね。
家庭内のヒエラルキー最底辺
良郎は今まで会社勤めに勤しんできたので、家庭内でのコミュニケーションは大してしてきませんでした。特に娘に関心があまりなく、娘の変化や癖にも鈍感です。そのうえ、気が弱くいつもへこへこしている性格なので、娘は反抗的、妻も口うるさくプレッシャーをかけつづける。
割とこういう家庭も多いのかもしれませんが、私の中のイメージでは父親は自分本位で強気なものだと思っていました(これは我が家が影響していますが)だから、いくら今まで仕事ばかりしていたとしても、ここまで妻も娘も相手にしてくれないのは驚きで。
それだけ良郎が弱腰なんでしょうけど。
それにしても、新型コロナウイルスが蔓延し、在宅ワークの機会も増えた世の中において、良郎と似たような立場の人も少なくないのではないでしょうか。
私は今時の若者なので、性別役割分業とか言っている場合じゃない世代です。(お金が足りん!)ゆえに、自分の両親くらいの世代の常識への理解は薄いほうですが、それでもまだまだ父親が仕事に専念し、母親が専業主婦の家庭が多くあるのは理解しているつもりです。そういった家庭で、今まで家庭にほとんど我関せずだった父親が在宅ワークになると、家族に疎まれたりすることもあるでしょう。なんせ、家事を何もしないのに、家に四六時中いて邪魔だからです。。。
ここで、強気の姿勢でいられる人は直接妻や子どもに悪く言われたりはしないんでしょうが、良郎のように気の弱い人は言われ放題で大変なんじゃないかと思います。(気の強い人は直接言われないだけで、陰で言われてると思ったほうがいいですけどね)気が弱くて、周囲の人にヘコヘコしているだけだと、この人は自分の意思がないのだと思われてしまいます。そして舐められる。そのうえ、子どもの学校行事や家事などを全て妻に任せてきたならば、言わずもがな居場所などないのです。
そんななので、良郎は就職活動も苦戦しましたが、物語は風向きを変えます。
家にいられないことが幸いした
良郎は家庭内カーストの最底辺なので、妻の言いなりで日中は働いているふりをするために、家の中には居させてもらえませんでした。
そのため、公園に落ちているどんぐりに気づくことができました。
家にいたならば、ずっと鬱々とした気持ちで何も発見もなく、再就職できない自分にいら立ちや情けなさを感じる羽目になっていたでしょう。家族ともうまくいかずに、下手をしたら精神疾患や自殺にまで追い込まれていたかもしれません。
それが、外を散歩していたら様々な出会いがあった。妻の言いなりで外にいたことが幸いして、良郎の人生は自分の色を取り戻してゆくのです。不幸中の幸いですね。
『ひなた弁当』からの学び
ここまで、感想を連ねてきましたが、最後に学んだことも残しておきます。あまり小説から学びとかは得ないのですが、今回はピンと来たのです。
出会いが人を変えてくれる。
当たり前かもしれません。でも、私は忘れていました。
人が変わるとき、そこには常に新しいことやもの、人が関わってくるものだと思います。
良郎も、どんぐりが食べられるという事実に出会い、野草の本に出会い、釣り人に出会い……と、様々な人やものに出会った結果、「ひなた弁当」を生き生きと売るお弁当屋さんになれました。
もちろん、フィクションゆえに出来過ぎた話ではありますが、出会いが人を変えるきっかけになることには違いありません。(『ひなた弁当』の感想を読書メーターというサイトで見ていたのですが、出来過ぎ!って意見はまあまあありました(笑))
私も人生を振り返って、出会いのたびに、少し自分の中に変化が訪れていたように思います。
近い記憶だと、ブログに出会ったことで考えや気持ちを吐き出す癖ができました。物でも人でも、出会いは大切ですね。
まとめ
『ひなた弁当』の感想と学びを残しました。
一言でまとめると、「出会いは人を変える」という教訓を得ました。気になる方は是非読んでみてください。
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