世の中にはこんなに狂気に満ちた作品があるのだなぁと思わされた作品、『パプリカ』。
映画のほうも知る人ぞ知る作品ですが、今回は原作である小説の感想を書き連ねます。
475ページにも及ぶ作品で、ややボリュームがありますが、中身のほうもボリュームあり過ぎなのでどっしり構えて読むことをお勧めします。
『パプリカ』の書誌情報
- 平成14年11月1日 発行
- 平成30年10月15日 20刷
- 著者:筒井康隆
- 発行所:㈱新潮社
あらすじ
精神医学研究所に勤める千葉敦子はノーベル賞級の研究者/サイコセラピスト。だが、彼女にはもうひとつの秘密の顔があった――。他人の夢とシンクロして無意識界に侵入する夢探偵パプリカ。人格の破壊も可能なほど強力な最新型精神治療テクノロジー「DCミニ」をめぐる争奪戦が、刻一刻とテンションを増し、現実と夢が極限まで交錯したその瞬間、物語世界は驚愕の未体験ゾーンに突入する!
『パプリカ』裏表紙より
思ったこと
私は小説を読むようになったのは最近で、教科書に載るような文豪の作品を読み切ったこともないようなど素人です。
世界には『ドグラ・マグラ』や『人間椅子』など、狂気に満ちた作品など数えきれんばかりに溢れていることでしょう。
素人的に『パプリカ』を読んで何を思ったのか、軽くメモをする程度だと思って、斜め読みしていただければと思います。
夢を通して精神治療をするという発想
夢というのは、日中の記憶の整理の役割をになっていますが、その人にとって印象に残っている出来事なども繰り返し見たりします。
それもそのはず、自分自身の脳が見せるものが夢ですから、自分の中にないものは映せないはず。
精神に不調をきたした人は、しばしば悪夢にさいなまれる模様。悪夢でないにしても、何かしら自身がとらわれている過去の出来事の暗示があります。
それを、パプリカが夢探偵として治療していくのですが……。
他人の夢を見れるというだけで相当画期的ですが、夢に入り込むというのはまたすごい発想の治療法ですね。夢なんて無法地帯を他人に見られるのは随分と抵抗感がありそうですが、パプリカは優秀なセラピストゆえに、あらゆる人を安心させ、虜にしていきます。
正直、この時点で怖い(笑)
無防備に夢に入り込まれてあれやこれやと操作される感じは、頭の中を直接いじられているかのように思えます。
こんな治療法、実現してほしくない。洗脳だって簡単にできてしまいそうだし、いじくりまわすことに失敗して廃人にされたり……。
だからこそ、作中でも熟練した限られたセラピストしか夢を覗くことを許されないのですが。
組織の内部に敵がいる恐怖
冒頭からすでに不穏な空気が漂う本作ですが、何より敵がはっきりしない最中にもじわじわと見方が廃人にされていく恐怖。
勿論、読んでいれば大体こいつらが敵だろう、くらいの予測はつくのですが、それでも主人公陣営がわたわたしてるものですから、気が気じゃないのです。
しかも、敵の行動が早い。人の脳をいじくりまわしているというのになんと素早いことか。
そんなこんなで、あっという間に窮地に立たされるパプリカたちを見て、恐怖しか感じないのです。
何が現実で、何が夢なのか
PT機器で患者の夢探偵をしているときにすら、DCミニによる影響を受け、夢がなだれ込んでくるのがややこしい。
それなのに、現実にまで夢が入り混じるとは、だれが想像したであろうか。
気が付くと、誇大妄想患者の夢が人の夢にも現実にも散見され、DCミニを使用したことのある者すべての夢までもが垂れ流し。阿鼻叫喚。
夢が入り混じった現実で死ぬと、本当に死んでしまうのだからたちが悪い。
しかも、夢で死んでも現実でも死ぬわけですから、すでに夢と現実の境界などは存在しないのです。
もはや、夢ですらすべて現実とでもいえるような世界に、ひたすら怯えと地に足着かない浮遊感を感じていました。
全体的に刺激的
ちょっと本作は、ピュアな人には読ませたくない内容です。というのも、狂気だけでなく、性描写も豊富だからです。
しかも、それにすら狂気を感じるように描かれているのだから恐ろしい。どこまで狂気を徹底するのやら。
少なくとも、小中学生には早いような気がします。ちょっと大人びていて、しっかり善悪の判断の付く高校生なら、まあ読んでも大丈夫かなぁと思います。
私は成人してから読むので正解でした。
まとめ
本作を一言でまとめるなら、狂気。
それくらいふんだんに狂気を味わえる作品です。
ただ、狂気という言葉で片づけるには、あまりにも設定が盛りだくさんなので、ぜひ自身の目で確かめていただければと思うのです。
映画のほうは、設定よりも夢と現が入り混じる、境界のない世界を表現することに注力しているように感じたので、その点も意識して読んでいただければ楽しめるのではないでしょうか。
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