【書評】『桜のような僕の恋人』の読書感想文:散りゆく桜の記憶

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『桜のような僕の恋人』(宇山佳佑著)は、難病を抱えたヒロインと冴えないニートの切ない恋を描いた恋愛小説だ。読書感想文の題材として選んだ人、あらすじや印象的な場面を確認したい人向けに、ネタバレありで内容を整理する。

※この記事はネタバレを含む。読了前の人は注意。

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他にも書評記事を書いている。
>>>【小説】新訳版『一九八四年』の感想:行き過ぎた監視社会というディストピア
>>>漫画『恋は雨上がりのように』を読み切った感想:夢に向かうための雨宿り

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『桜のような僕の恋人』のあらすじ

美容師として働く24歳の「有明美咲」に一目惚れした無職の「朝倉晴人」。晴人が美咲の美容院で髪を切ってもらっている際に、不審な動きで耳たぶを切り落とされてしまう事故が起きる。この「耳たぶ事件」をきっかけに距離が縮まり、二人は恋人同士になった。

しかし幸せな日々は長く続かない。美咲は「ファストフォワード症候群」という難病を患っており、通常の数十倍の速さで老化が進んでいく。晴人に老いていく姿を見せたくない美咲は、「他に好きな人ができた」と嘘をついて姿を消す。

その後、美咲の兄・貴司が晴人に真実を告げたことで二人は再び繋がるが、美咲の老化はすでに取り返しのつかないほど進んでいた。美咲は顔を見せることができないまま、春の桜が咲く前に息を引き取る。

読書感想文を書くなら:この本のテーマと核心

感想文の軸として使いやすいテーマを3つ挙げる。

①「夢を諦めること」の残酷さ

美咲はいつか自分の美容院を持つという夢を持ち、毎日懸命に働いていた。しかし病気によって夢のほとんどを諦めなければならなくなる。体が動かなくなっていく状況で、叶えられない夢を持ち続けることの残酷さ——この本が最も胸に刺さる部分のひとつだ。夢を持つことの意味、あるいは夢を諦めることで何を失うのかを感想文の軸にすると書きやすい。

②「見せたくない」という愛情の形

美咲は晴人のことが好きだからこそ、老いた姿を見せることができなかった。ふすま越しの会話、しわがれた声を聞かせないための沈黙——美咲の行動はすべて「愛しているから遠ざける」という選択だ。一般的な恋愛とは逆の論理でありながら、読んでいて切なさが滲み出てくる。愛情表現の多様さ、あるいは自己犠牲の是非を論じると感想文に深みが出る。

③晴人の成長と「誰かのために生きること」

物語の始まりで晴人はニートであり、カメラマンだと嘘をつく人物だった。しかし美咲との出会いを経て動き出し、美咲を失った後も「美咲のために撮り続ける」という決意を持つ。誰かの存在が人を動かす原動力になること、あるいは喪失の後でもその動力は残り続けることが描かれている。

印象に残った場面・言葉

読書感想文でよく使われる「印象に残った場面」として、以下の3つが特に機能しやすい。

ふすま越しの会話

晴人が一人で喋り続け、美咲は無言のまま聞いている場面。直接顔を合わせることも声を出すことも拒んだ美咲の選択が、どれほど深い思いから来ているかを想像させる。会話のない「会話」という矛盾した状況が、この物語の悲しさを象徴している。

写真展での再会(すれ違い)

美咲が亡くなる直前、二人は公園で出会っていたにもかかわらず、晴人は目の前の相手が美咲だと気づかなかった。老化が進んだ美咲の姿を、晴人は美咲だと認識できなかったのだ。このすれ違いこそが後の晴人の自責の核心になる。「気づけなかった」という後悔は、気づくことができなかった状況があったからこそ余計に重い。

「美咲のために撮り続ける」という決意

美咲を失い、引きこもり、カメラさえ手放しかけた晴人が、最終的に下した決意。この言葉は「目標を失った人間がどうやって前に進むか」という問いへの、この物語なりの答えだ。美咲がいなくなっても、美咲に動かされた自分は消えないという解釈もできる。

登場人物の読み解き

朝倉晴人

物語冒頭の晴人は、夢を持ちながら何もしていないニートだ。カメラマンだと嘘をついたのは、一目惚れした相手に「残念なやつ」だと思われたくなかったから——計算ではなく感情に素直すぎる行動だ。良くも悪くも自分の気持ちに正直で、その不器用な誠実さが最終的に美咲に届いた。美咲を失った後の自責と引きこもりも、同じ「感情に正直な人間」の帰結として読める。

有明美咲

物語冒頭から夢に向かって動いている人物。人見知りで恋愛経験は少ないが、自分の夢には誰よりも真剣だった。病気の告知後も感情を荒立てることなく、晴人を気遣い続ける姿は、感情を制御する余裕が削られていく状況では実際には相当しんどい選択だったはずだ。「お人よし」ではなく、限られた時間の中で自分なりの形で愛した人物として読んだ方が深みがある。

「ファストフォワード症候群」という病について

この物語の核心にある設定だ。通常の数十倍の速さで老化が進み、若くして死に至る難病(作中の架空の病名)。この病を物語の軸に置くことで、作者は「時間」と「外見」と「愛」の三つを同時に問いにしている。

愛する人に老いた姿を見せたくない、というのは多くの人が共感できる感情だろう。しかし美咲の場合、それが二十代で、一年もかからないペースで訪れる。感情の制御を求める状況としては、明らかに限界を超えている。にもかかわらず美咲がほとんど感情を乱さず晴人を気遣い続けたのは、物語上の美化であるとも、あるいは「夢と愛情に生きた人間の強さ」の描写であるとも読める。

感想・総評

普段あまり恋愛小説を読まないタイプの人間が読んでも、ラストまで読み切れる引力はある。二人の関係の始まり方(耳たぶ事件という不自然な縁)に違和感を覚えても、物語が進むにつれてその不自然さが薄れていくのは、晴人と美咲それぞれのキャラクターが丁寧に積み上げられているからだ。

読後にずっと引っかかるのは「晴人は美咲のために撮り続けるが、それは美咲にとって望んだことだったのか」という問いだ。美咲の手紙の内容は明かされない。だからこそ、晴人の解釈がすべてになる。その余白が読者に委ねられている。

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